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名古屋地方裁判所 昭和47年(行ウ)3号 判決

愛知県豊田市白山町七曲一二番地

原告

広川良平

右訴訟代理人弁護士

片山主水

同県岡崎市明大寺本町一丁目四六番地

被告

岡崎税務署長

磯部芳一

右指定代理人

山田厳

伊藤好之

荒川登美雄

田中利刀

酒井常雄

東京都千代田区霞が関三丁目一番一号

被告

国税不服審判所長

海部安昌

右指定代理人

伊藤好之

荒川登美雄

村瀬茂

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

(原告)

一  被告岡崎税務署長が昭和四三年一二月二六日原告に対してなした昭和四〇年、同四一年および同四二年分の各所得税賦課決定処分ならびに右各年分の無申告加算税賦課決定処分はいずれも無効であることを確認する、

二  被告国税不服審判所長が昭和四六年一二月二日名所四六第五六号をもって原告に対してなした裁決を取り消す、

三  訴訟費用は被告らの負担とする、

との判決。

(被告ら)

主文同旨の判決。

第二請求の原因

一  被告岡崎税務署長(以下、被告税務署長という)は、昭和四三年一二月二六日原告に対し、昭和四〇年、同四一年おび同四二年分の各所得税賦課決定処分ならびに右各年分の無申告加算税賦課決定処分(以下、本件課税処分という)をなした。

二  しかしながら、本件課税処分は次のとおり無効である。

1  賦課決定は、国税通則法三二条および同一二条により賦課決定の通知書を納税者に送達しなければならないところ、原告は昭和四〇年八月一一日破産宣告をうけ、弁護士大塚錥子、同浅野隆一郎両名がその破産管財人であったため、本件課税処分の通知書は右破産管財人に送達されたにとどまり、原告に対し送達されていない。

ところで、破産法一九〇条一項は、裁判所は通信官署等に対し、破産者に宛てた郵便物を破産管財人に送達すべき旨嘱託することを要する旨規定する。しかし、同条は、破産管財人に対し破産財団に関すると否とを問わずすべての郵便物について、破産者に代り受領の権限を与えたものではない。すなわち、破産財団に関する郵便物である限り破産管財人は送達の終了点であるというべきであるが、破産宣告後の発生原因に基づく本件課税処分の通知書のように破産財団に関しないものについては、破産管財人はいかなる意味においてもその管理処分権を有しない。

したがって、破産管財人は本件課税処分の通知書を適法に受領する権限を有しないし、また原告本人にも交付されていない以上、送達は未だ有効になされたとはいえず、右は重大かつ明白な瑕疵というべきである。

また、原告が本件課税処分のあったことを知ったのは昭和四四年六月一〇日頃であり、しかも、ただ漠然と課税処分があったということだけ破産管財人から知らされたに過ぎないところ、課税処分という個人の権利義務関係を創設し、独自に強制力を有し、公定力をもつ重要な処分は、厳格な要式性の具備を必要とするものであるから、右の程度では送達の効果が発生するとみることはできない。

2  本件課税処分は、所得の全然ないところに賦課されたものであるから、無効である。

原告は破産宣告前から宅地造成分譲事業を営んできたが、緻密な事業計画や資本計画もなく、また正確な原価計算もないため、またたく間に多額の借財を負担することになり、遂に支払不能のため昭和四〇年八月一一日破産宣告をうけ、さらに、同四二年頃、総額二千万円に達する詐欺等により起訴されるに至ったもので、原告の所得内容は、別紙「原告主張の収支決算表」記載のとおり係争各年分ともすべて赤字である。

しかるに、被告税務署長が多大な所得額を認定のうえ本件課税処分をなしたのは全く事実に基づかず、課税根拠が全然ないのに課税したものであり、重大かつ明白な瑕疵があるというべく、本件課税処分は当然無効である。

3  本件課税処分は憲法三一条、三〇条に違反し無効である。

すなわち、刑事関係における個人の生命・自由・財産の保障関係におけるそれらの保障との間には本質的な差異はないのであるから、憲法三一条に規定する正当手続保障の原則は、納税における関係においても当然適用ないし準用されるべきである。

しかるに、本件賦課決定手続においては、原告の申告はなく、税務署側の一方的な調査に基づき、原告に一言の弁解釈明の機会を与えることなく賦課決定されたのであるから、前記各法条に違反し、無効というべきである。

また、仮りに国税通則法三二条一項の規定が右のような一方的な手続を許容する趣旨を含むならば、同法条は憲法三一条に違反する。

三  そこで、原告は、昭和四六年八月三一日、本件課税処分通知書送達の欠および所得の皆無を理由として、被告国税不服審判所長(以下、被告審判所長という)に対し審査請求をなしたところ、被告審判所長は同年一二月二日、本件課税処分の通知書が原告に送達されたのは昭和四四年一月五日以前のことであり、また仮りに右通知書が破産管財人に送達されたとしても、原告において本件課税処分の事実を昭和四四年三月頃知ったのに、そのいずれの場合においても法定期間内に異議申立がなされていないとして、右審査請求を却下するとの裁決をなした。

しかし、右裁決は、法定期間内の異議申立の有無のみ判断し、国税通則法七五条四項二号にいう行政不服審査法の規定による教示の有無について判断しない違法があるから、取消されるべきである。

第三被告らの認否

(被告税務署長)

一  請求原因一の事実は認める。

二  同二、1の事実のうち、原告がその主張の日に破産宣告をうけ、破産管財人として弁護士大塚錥子および同浅野隆一郎が選任されたこと、および、破産宣告後の原因に基づく本件課税処分の通知書が右大塚弁護士に送達されたことは各認めるが、原告が昭和四四年六月一〇日頃本件課税処分を知ったことは否認する。原告は遅くとも同年一月中旬頃には了知していたものである。

三  同二、2の事実のうち、原告が破産宣告前から宅地造成分譲事業を営んできたこと、および、係争各年分の賃貸料収入、雑収入の各金額が原告主張のとおりであることは認めるが、その余の事実は不知。

四  同二、3の事実のうち、原告の申告がなかったことは認めるが、その余の事実は否認する。

(被告審判所長)

一  請求原因一の事実は認める。

二  同三の事実のうち、原告がその主張の日、主張のとおり、被告審判所長に対し、審査請求をなし、同被告が却下の裁決をなしたことは認めるが、その余の事実は否認する。

第四被告らの主張

(被告税務署長)

一  賦課決定の通知書は、破産管財人に配達されたときに、国税通則法一二条による送達が完了すると解すべきである。

すなわち、国税に関する法律の規定に基づいて税務署が発送する書類の送達は、国税通則法一二条の定めるところであり、同条一項は、書類の送達は郵便による送達又は交付送達により、その送達を受けるべき者の住所又は居所に送達する旨規定する。

ところで、一般に行政上の書類の送達は、受送達者が必ずしも現実にその書類を受領することを要するものでなくその内容を了知しうる状態におけばたりるのであるから、本人でなく、その同居者・使用人・その他本人と一定の関係がある者が書類を受領した場合でも遅滞なく本人に到達することが期待される事情があれば送達は有効になされたというべく、その後その書類が紛失したとしても、書面通知を要する行政処分が違法無効となるものでない。

本件の場合、被告税務署長は、昭和四三年一二月二六日本件課税処分の通知書を原告にあて送達した。たまたま当時原告は破産者であり、原告に対する郵便物について、名古屋地方裁判所から豊田郵便局に対し破産管財人大塚弁護士に配達すべき旨の嘱託がなされていたところ、右管財人は破産者たる原告に対する一切の郵便物を直接受領する権限が与えられたものというべく、原告にあてた前記通知書は右破産管財人に配達されたのであるから、本件課税処分の通知書は有効に送達されたというべきである。

さらに、原告は破産手続中種々打ち合わせのため破産管財人と十分接衝を重ねたことが窺われるばかりでなく、昭和四四年一月中旬頃、本件課税処分の調査を担当した係官に対し、本件課税処分を不服として原告自ら電話連絡したのみならず、同年三月頃に至り岡崎税務署へ数回訪れ再調査の申し出をしたことからみると、原告は本件課税処分の通知書を破産管財人から交付されていたか、少なくともその内容を了知していたことは明らかであるから、原告の主張は失当である。

二  原告は本件係争各年当時、土地の分譲、不動産の仲介等を手がけるかたわら、不動産の賃貸業もなしていたが、本件係争各年分の所得税について確定申告書を提出しなかった。そこで、被告税務署長は、原告の営業の実態からみて所得税課税標準額等を調査する必要があると思われたので、昭和四一年九月頃から同四三年一一月頃にかけて係官を調査に当たらせた。

ところが、原告は、係官が営業関係の帳簿書類等の提示を求め、あるいは本件係争各年当時の営業概況等につき説明を求めても協力せず、係官の再三に亘る調査協力方要請にも応じなかったので、その営業所得金額等を実額にて計算することができなかった。そのため、被告税務署長は、止むを得ず、判明した原告の取引先等について調査を行ない、取引額等の実額確認に務めるとともに、確認不可能なものについては収集した取引資料等より合理的に推計して係争各年分の営業所得金額等を別紙総所得金額計算表のとおり算出した。

従って、原告に対する本件係争各年分の総所得金額等について被告税務署長のなした本件課税処分に何らの瑕疵はない。

なお、一般的に所得金額の誤認は、行政処分である所得税賦課決定処分の明白な過誤でありかつ重大な瑕疵であるということはできないから、これを無効ということは許されないというべきである。

(被告国税不服審判所長)

裁決の判断理由(9)によれば、被告審判所長において、本件課税処分の通知書を昭和四四年三月頃破産管財人から提示されたとの事実を原告自身の供述により認定したうえ、その後法定期間内に異議申立がないとして本件審査請求を却下する旨の裁決をなしていることが明らかであって、これによれば、原告は遅くとも昭和四四年三月頃、本件課税処分の通知書を見た際、該通知書の記載文言により国税通則法七五条四項二号にいう行政不服審査法の規定による教示がなされたものと判断していることが窺われるから、この点に関する原告の主張は失当である。

第三証拠

(原告)

甲第一、二号証、同第三号証の一ないし四、同第四ないし同第四九四号証を提出し、証人大塚錥子、同浅野隆一郎、同成宮敬治の各証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)を各援用し、乙第一ないし第九号証および同第一二号証の各成立を認め、同第一〇、第一一号証の各成立は不知、丙第一号証の成立を認める。

(被告税務署長)

乙第一ないし第一二号証を提出し、証人二村有三の証言を援用し、甲第一、二号証、第三号証の一ないし四、第四ないし第一九号証、第二二ないし第一九八号証、第二四一ないし第二六三号証、第二六五号証、第二八一号証、第二八九ないし第三五六号証、第三五八ないし第三八六号証、第三八八ないし第四〇一号証、第四〇四ないし第四三五号証、第四三七、四三八号証、第四四一ないし第四四四号証、第四四六ないし第四四八号証、第四五〇ないし第四五三号証、第四五五ないし第四六〇号証、第四六二ないし第四六六号証、第四六八ないし第四八二号証、第四八四、四八五号証、第四八七、四八八号証、第四九一ないし第四九三号証の各成立は認め、その余の甲号各証の成立は不知。

(被告審判所長)

丙第一号証を提出。

理由

一  被告税務署長が昭和四三年一二月二六日原告に対する本件課税処分をなしたことは、当事者間に争いがない。

ところで、原告は滞納処分着手後において、本件課税処分の無効確認を求めるので、先ず、本訴における原告適格(確認の利益)について考えるに、行政事件訴訟法三六条によれば、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者は右処分または裁決についての無効確認訴訟を提起しうるものと解すべきである。

ところで、課税処分は滞納処分との関係で先行処分というべきであり、しかも、弁論の全趣旨によれば、本件課税処分に対しては未だ税金が完納されておらず、その後続処分としての滞納処分が現に続行中であることが窺われるところ、右滞納処分の続行により原告が損害を受けることは明らかであるから、原告は本訴を提起するにつき原告適格を有するものということができる。

そこで、進んで本案請求について判断する。

二  被告税務署長に対する請求について。

1  原告は、本件課税処分の通知書の送達欠ないし未了知による無効を主張する。

いうまでもなく、賦課決定は単に税務官庁の内部において決定の決議がなされたに止まり未だ納税義務者に通知されるまでは課税処分としては存在せず、それが有効に成立するためには、その通知書が納税義務者に送達されなければならない。しかして、納税義務者が破産者であれば、破産法一九〇条一項の適用される場合には破産者あての郵便物はすべてその破産管財人に送達されることとなるか、その趣旨は、破産者の財産状態につき破産財団に属すべき財産の有無ならびにその所在を知る必要から、通信の秘密に対する例外として、とくに認められたものであること、同法条三項において「破産者は破産財団に関しない郵便物の交付を求めることができる」と規定している趣旨に照らすと、破産財団に関する郵便物については破産管財人に送達されることにより送達の効力があると解することもできるが、破産財団に関しないものについては破産者が現実に郵便物を受領したか、または当然破産者の了知し得べき状態に置かれた場合にはその時点で、送達の効力を生ずるものというべきである。

これを本件についてみるに、本件課税処分当時原告が破産宣告を受けており、その破産管財人として弁護士大塚錥子、同浅野隆一郎両名が選任されていたことおよび破産宣告後の原因に基づく本件課税処分の通知書(破産財団に関しない郵便物)が右破産管財人大塚弁護士に送達されたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第四ないし第七号証および証人二村有三の証言ならびに弁論の全趣旨によれば、本件課税処分の通知書は昭和四三年一二月二六日原告あて発送されたが、その後間もない翌四四年一月初旬頃になって、原告自ら被告税務署長に対し、本件課税処分の内容が承服できないとして所得税額等のかなり具体的な数字を挙げて抗議する電話をかけてきたこと、その後にも原告は岡崎税務署へ数回赴いたうえ、昭和四四年六月二〇日付「嘆願書」と題する書面を被告税務署長に提出し、本件課税処分の再調査を求めていること等が認められ、また、証人大塚錥子および同浅野隆一郎の各証言ならびに原告本人尋問の結果(第一回、但し後記措信しない部分を除く)によれば、原告は破産事件の係属中たびたび破産管財人の許へ出頭して折衝を続けていたこと、破産管財人のところへ転送されてくる原告個人あて郵便物は一旦開封された後原告の出頭の際などに渡されていたこと、そして、昭和四四年四月に至り破産手続が終結した際、原告が破産管財人から返還された一件書類の中には本件課税処分通知書は含まれていなかったこと、がそれぞれ認められる。

もっとも、原告本人(第一回)尋問の結果中、「本件訴訟の提起まで右通知書を見たことがなく、破産管財人からその具体的内容を聞かされたこともない」旨の供述は、前掲各証拠に照らし、たやすく信用することはできず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

以上認定の諸事情を勘案すると、原告は遅くとも昭和四四年一月中旬頃までに本件課税処分の通知書を破産管財人から受領していたか、また少なくともその具体的な内容を十分了知していたものと推定するのが相当である。従って、本件課税処分の通知書の不送達または未了知をいう原告の主張は、失当というべきである。

2  次に、所得が皆無であるとする原告の主張について判断する。

一般に、所得金額誤認は、行政行為である所得税決定等の明白かつ重大な瑕疵ということはできないが、 単に所得金額を誤認するにとどまらず、収支決算の結果赤字となり所得皆無に帰する場合における課税決定のように、課税要件の根幹についての瑕疵があり、しかも不服申立期間の徒過による可争的効果の発生を理由として被課税者に右処分による不利益を甘受させることが著しく不当と認められるような例外的な事情がある場合には、前記過誤による瑕疵は、当該処分を当然無効ならしめるものと解するのが相当である。これを本件についてみるに、原告が昭和三八年頃から宅地造成分譲事業を営んできたこと、係争各年分の賃貸料収入、雑収入の各金額が別紙原告主張の収支決算表のとおりであることは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第二号証および同第三号証の一ないし四によれば、原告は営業資金に窮した末多額に亘る詐欺をはたらいたり等したとして昭和四二年五月以降相次いで起訴され、同四六年三月には有罪の判決を受けたことが認められる。しかしながら、他方、成立に争いのない乙第一二号証および証人二村有三の証言ならびにこれにより成立が認められる乙第一〇、一一号証によって窮われる原告の破産宣告後における営業活動状況に照らすと、破産宣告・刑事事件有罪の事実をもってただちに所得皆無の証左とみるのは早計であるといわなければならず、また、係争各年とも収支決算は赤字であるとの原告本人(第二回)の供述についても、原告の提出する書証(領収証等)を含め本件全証拠によるも右供述を裏付けるにたりず、措信できないし、その他原告の主張事実を認めさせるにたりる適切な証拠はないので、その余の点につき判断するまでもなく本件課税処分が当然無効であるとの原告の主張は、失当というべきである。

3  また、原告は、本件課税処分は原告に対し何ら弁明の機会を与えることなく一方的な調査だけに基づいてなされたものであるから、憲法三一条、三〇条等にいう適正手続の趣旨に違反して無効であると主張する。

ところで、税務職員のなす調査手続の違法が課税処分等に対し実質的にどのような効果を及ぼすのか問題の多いところである。しかし、原告はその破産宣告前から宅地造成分譲事業を営んでいたことは当事者間に争いがなく、証人二村有三の証言および弁論の全趣旨によれば、原告は右分譲事業のかたわら建売り、不動産取引仲介業も営んでおり、昭和四〇年八月の破産宣告後においてもこれらの事業を続けるとともに不動産賃貸業を手がけていたが、本件係争各年分の確定申告書を提示しなかったので(この点は当事者間に争いがない)、その所得税課税標準等について調査が開始されたこと、前任者の調査を引き継いだ岡崎税務署の係官二村有三は昭和四三年九月頃から数回原告宅へ赴いて本件係争各年分関係の営業帳簿類等の提示を要求し、その営業概況の説明を求めるなど実地の調査に当たったところ、原告は破産宣告を受けたことや詐欺等により起訴された関係上営業帳簿類等はすべて破産管財人または検察庁の許にあるとしてその提示をなさず、さらに破産者であるから自己の話すことに責任がもてないと終始弁解するのみで営業概況の説明もなさないばかりでなく破産管財人の氏名すら明らかにしなかったこと、そのため右係官は止むをえず、いわゆる反面調査を主体にした調査を進め、最終的に別紙総所得金額計算表記載の所得金額を把握したうえ、最後の手続として上司の命により納税者たる原告の意見・説明を求めるため原告に連絡したにもかかわらず、原告はこれに応じなかったので、被告税務署長は右調査結果に基づき、本件課税処分をなしたこと等の各事実を認めることができ、右認定を左右するにたりる証拠はない。

右認定事実によれば、被告税務署長のなした税務調査はその手続過程において、格別違法とする事由を見出すことができない。従って、本件課税処分は適正な手続により行なわれたものということができるから、その然らざることを前提とする原告の無効の主張も失当である。

以上のとおり、被告税務署長のなした本件課税処分は原告の主張する各無効事由の存在を認めることができないので、結局、本件課税処分は有効に成立しているものといわなければならない。

三  被告審判所長に対する請求について

原告は、本件裁決が法定期間内の異議申立の有無のみ判断し、国税通則法七五条四項二号にいう行政不服審査法の規定による教示の有無を判断しなかった違法があると主張する。

しかして、原告が昭和四六年八月三一日被告審判所長に対し、本件課税処分通知書送達の欠および所得の皆無を理由として審査請求をなしたこと、被告審判所長において、本件課税処分の通知書が原告に送達されたのは昭和四四年一月五日以前のことであり、また仮りに右通知書が破産管財人に送達されたとしても原告は本件課税処分の事実を同年三月頃知ったのに、右いずれの場合においても法定期間内に異議申立がなされていないとみて、昭和四六年一二月二日右審査請求を却下する旨の裁決をなしたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第一ないし第三号証によれば、本件課税処分の通知書には通知を受けた日の翌日から起算して一月以内に岡崎税務署長に対し異議を申し立てることができる旨明確に教示した記載がなされているところ、成立に争いのない丙第一号証によれば、被告審判所長はその判断理由(3)において、原処分の各通知書を昭和四四年三月頃破産管財人から見せられた事実を原告自身の供述により認定したうえ、その後法定期間内に異議申立をしていないと説示していることが認められ、右認定に反する証拠はない。従って、右認定事実によれば、本件裁決書中右教示の有無を端的に言及した文言は見当たらないものの、原告が本件各通知書を見た際に該通知書の記載事項自体により当然前記の教示がなされたものと判断していることが容易に看取されるから、本件裁決は原告主張の瑕疵のある違法のものということはできない。従って、原告の右主張もまた採用することはできない。

四  結論

以上の次第であって、原告の本訴各請求はいずれも理由がないので、すべて失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田義光 裁判官 鏑木重明 裁判官 槌口直)

原告主張の収支決算表

〈省略〉

〈省略〉

総所得金額計算表

〈省略〉

二 不動産所得 七〇九、六〇〇 一、一〇四、〇〇〇 一、一三七、六〇〇

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